「Ζ(ゼータ)計画」は、宇宙世紀0080年代前半にエゥーゴとアナハイム・エレクトロニクスが共同で推進した次世代モビルスーツ開発計画です。
一年戦争後に急速に進化したモビルスーツ技術を背景に、可変機構の実用化と高性能汎用機の開発を目指し、複数の試作案が同時進行で進められました。
計画の中核にあったのは、Ζガンダム(コードネーム:ζ)をはじめ、可変機構を省いた百式(コードネーム:δ)、初期主力となったリック・ディアス(コードネーム:γ)などの機体群。さらに、後年のΖΖガンダム(コードネーム:θ)、Sガンダム(コードネーム:ι)といった機体にも発展していきます。
この計画は、単に新型機を生み出すだけでなく、グリプス戦役や第一次ネオ・ジオン抗争といった大規模戦争の中でエゥーゴの戦力基盤を支え、その技術は後のνガンダム、Ξ(クスィー)ガンダムなどの設計思想にも受け継がれていきました。
本記事では、このΖ計画の背景、目的、そしてそこから生まれた機体群とその後継までを徹底的に解説します。
一年戦争における連邦軍のV作戦については、こちらの記事で詳しく解説しています。
1. 計画発足の背景
1.1 計画を進めたアナハイム・エレクトロニクス社
一年戦争終結後、月を拠点として一般家電などを製造・開発していたアナハイム・エレクトロニクスはジオニック者の技術者や研究施設を吸収し、軍需産業への参画を図りました。
グリプス戦役ではエゥーゴのスポンサーとして出資するとともに、モビルスーツや艦船の開発・提供を行っていました。
その中で高性能モビルスーツを開発する共同計画が「Ζ計画」です。
1.2 可変モビルスーツ研究の進展
グリプス戦役以前に、地球連邦軍(ティターンズ)はすでに可変機のアッシマーを開発していました。
エゥーゴがこれに対抗するため、アナハイムに可変モビルスーツの開発を依頼しました。
アナハイムがこの可変機開発に応えるための開発計画を進めることとなりました。
これが「Ζ計画」の始まりとされています。
1.3 ガンダムMk-IIとの関係
ガンダムMk-IIはティターンズが独自に開発した機体であり、Ζ計画そのものの成果物ではありません。
しかし、後にエゥーゴがMk-IIを鹵獲したことで、その運用データや構造がΖ計画の開発に大きな影響を与え、Ζガンダム誕生への技術的土台となりました。
2. Ζ計画から生まれた主な機体とコードネーム
Ζ計画は複数の試作案が同時進行したため、開発段階では機体ごとにギリシャ文字やアルファベットを用いたコードネームが与えられていました。
これらのガンダムの系譜は通称「アナハイム・ガンダム」とも呼ばれるようになります。
ここでは、それぞれの機体の特徴と開発経緯を見ていきます。
2.1 γガンダム(ガンマガンダム) → リック・ディアス
- 型式番号:RMS-099 / MSA-099
(RMS-は地球連邦軍の量産機、MSA-はアナハイム製のモビルスーツを示す) - 特徴:重装甲・高機動・非変形MS
- 開発経緯:一年戦争後、エゥーゴ初期主力機として開発。装甲材には新素材「ガンダリウムγ」を採用し、ザク系MSに比べて高い防御力を誇ります。
また、装甲材の変更により軽量化にもつながり、非常に高い運動性・機動性も獲得しました。 - 名称:コードネームは「γガンダム」でしたが、外見がガンダムとは大きく異なるため、クワトロから「ガンダム」以外の名前にする希望が挙がりました。
そこでガンダムとつかないコードネームとして「リック・ディアス」が与えられました。 - Ζ計画との関係:可変機構は搭載していないが、エゥーゴの技術基盤確立に不可欠な初期成果として位置づけられています。
2.2 δガンダム(デルタガンダム) → 百式
- 型式番号:MSN-00100
(MSN-は、アナハイム製のなかでもナガノ博士が開発主任を担当した機体) - 特徴:高機動・高精度射撃・可変型MSの開発を目指す
- 開発経緯:可変機構を持ったMSの開発を目指した計画だったが、既存のセミ・モノコック構造を中心とした形式では可変機能の実装が叶いませんでした。
可変機能をオミットした形でモビルスーツを仕上げる形となり、「δガンダム」としてではなく「百式」として完成しました。
2.3 Ζガンダム(ζガンダム・ゼータガンダム)
- 型式番号:MSZ-006
- 特徴:可変MSの完成形。モビルスーツ形態とウェイブライダー形態を自在に切り替え可能。
- 開発経緯:δ開発計画での失敗をもとに、メタスによって実証した可変機構とMk-IIに使われていたムーバブルフレームの技術を融合。
「離れた戦場に輸送機や戦艦を使って輸送するところを、自力で移動することができる」「Ζガンダム単機で大気圏突入が可能」というメリットが得られました。 - Ζ計画との関係:計画名の由来にもなった機体であり、グリプス戦役におけるエゥーゴの主力ガンダム。
2.4 θガンダム(シータガンダム) → ΖΖ(ダブルゼータ)ガンダム
- 型式番号:MSZ-010
- 特徴:合体・変形機構を併せ持つ高火力MS。FA(フルアーマー)形態への拡張も可能。
- 開発経緯:1機のMSをより高性能化させる動きが加速。Ζガンダムの発展型として開発。MS形態、Gフォートレス形態、コアトップ/コアベース形態への変形を実現。
- Ζ計画との関係:第一次ネオ・ジオン抗争での切り札として実戦投入され、可変機技術と高火力思想の集大成となった。
2.5 ιガンダム(イオタガンダム) → S(スペリオル)ガンダム
- 型式番号:MSA-0011
- 特徴:多用途試験機。モジュール分離・合体、可変機構、高出力火器など多彩な実験要素を搭載。
- 開発経緯:1つの機体に機能を盛り込むのではなく、追加パーツによる拡張性が追及された。
8個の強化パーツを追加した強化形態「Ex-S(イクスェス)ガンダム」への換装も可能。 - 備考:元は「スペリオルガンダム」という表記だったが、スペリオルという名称は既存の商標に抵触してしまう状況でした。
そのため、ガンプラなどの製品名では「Sガンダム(エスガンダム)」という表記に統一されています。
3. Ζ計画の影響とその後継機群
Ζ計画は、グリプス戦役から第一次ネオ・ジオン抗争にかけて、エゥーゴおよび連邦系勢力のモビルスーツ戦力を大きく底上げしました。
その影響は、戦局面と技術継承面の両方に現れています。
3.1 戦局における役割
グリプス戦役では、Ζガンダムがエゥーゴの主力量産試作機として前線に投入され、可変機構による機動性と高火力を活かしてティターンズやネオ・ジオン残党と渡り合いました。
また、リック・ディアスや百式は非変形ながら高い信頼性を武器に、指揮官機や対艦戦闘で成果を上げています。
第一次ネオ・ジオン抗争では、ΖΖガンダムがネオ・ジオンの大規模戦力に対抗する切り札として活躍。
合体・変形・高火力という三要素を併せ持ち、エゥーゴから改編されたロンド・ベル隊などの部隊に大きな戦術的優位をもたらしました。
3.2 技術継承と後継機群
Ζ計画で培われた可変機構・モジュール化・高出力化の技術は、その後のモビルスーツ開発にも大きな影響を与えました。
- リ・ガズィ(RGZ-91):可変機構を追加装備により、コストや整備性を重視しつつ再現することで簡略化した量産型MS。
「リファイン・ガンダム・ゼータ(Refined Gundam Zeta)」の略で「リガズィ」という名前が付けられています。 - νガンダム(RX-93):直接的にはΖ計画の派生機ではないものの、アナハイム製のガンダムであることから命名規則が継承されています。
すでに成熟していた非変形機のノウハウと、すでに規格化されている部品を多様することで開発期間の短縮が図られ、それが戦闘における補給を簡易化させることにもつながっています。 - Ξ(クスィー)ガンダム(RX-105):モビルスーツに搭載できるサイズのミノフスキーエンジンを搭載し、大気圏内でも飛行が可能となっています。
ミノフスキーエンジンやファンネル・ミサイルなどを搭載したことで、従来機よりもはるかに大型化したのも特徴です。
強力なビーム・バリアーと単独飛行により、Ξガンダム1機で圧倒的優位を取ることができました。
4. 戦局におけるΖ計画の役割
Ζ計画は、単なる新型MS開発の枠を超え、戦局そのものを左右する戦力構築計画として機能しました。
特に、グリプス戦役と第一次ネオ・ジオン抗争という二大戦争の中で、その存在意義は鮮明になっています。
4.1 グリプス戦役でのエゥーゴ主力化
グリプス戦役において、エゥーゴはティターンズやネオ・ジオン残党と戦うために即戦力を必要としていました。
Ζ計画から生まれたΖガンダムは、可変機構による機動力と高火力装備を武器に、数的不利を覆す戦術的価値を発揮します。
百式は非変形機ながらも整備性・耐久性に優れ、指揮官機としての役割や拠点防衛戦において安定した成果を上げました。
4.2 第一次ネオ・ジオン抗争での切り札
グリプス戦役後に続く第一次ネオ・ジオン抗争では、ΖΖガンダムが登場します。
高出力ジェネレーターと大火力兵装を搭載し、単機で非常に高い性能を備えている本機は、ネオ・ジオンの大型艦隊や要塞攻略戦において決定打となりました。
また、Ζガンダムも継続運用され、Ζ計画機同士の連携による戦術も実現しました。
5. まとめ:Ζ計画が残した技術的遺産
Ζ計画は、グリプス戦役と第一次ネオ・ジオン抗争という激動の時代において、エゥーゴおよび連邦系勢力の中核戦力を生み出しただけでなく、モビルスーツ開発史そのものに大きな転換点を刻んだ計画でした。
その最大の成果は、以下の3点に集約できます。
- 可変MSの本格実用化
Ζガンダムの成功は、可変機構を持つMSが実戦に耐えうる戦力であることを証明しました。この成果は後のΖΖガンダム、リ・ガズィ、さらにはΞ(クスィー)ガンダムなどにも技術的系譜として引き継がれます。 - 多様な開発アプローチの確立
γ、δ、Ζ、Sといった複数の試作案を開発・評価する柔軟な方式により、異なる運用思想を持つ複数機体が同時に戦力化されるという新しい開発文化が生まれます。 - アナハイム・エレクトロニクスの技術的独占体制の礎
Ζ計画を通じて蓄積された可変機構、モジュール化、高出力兵装などの技術は、アナハイムが宇宙世紀後期のMS開発をほぼ独占する技術的基盤となりました。これにより、νガンダムやΞガンダムなどの後期主力量産機にも間接的な影響を与えます。
総じて、Ζ計画は単一機種の開発計画ではなく、複数の開発案を通じて次世代MSの方向性を模索し、その成果を後世へとつなげた包括的プロジェクトでした。
その遺産は、宇宙世紀の長い歴史の中でも特に革新的な時代を形作り、ガンダムという存在の可能性をさらに広げることになったのです。